日本では現在、「技能実習制度」に代わって「育成就労制度」を導入する準備が進んでいます。その中でも、海外の自社グループ会社で働く社員を日本へ受け入れ、現場で働きながら育成していく仕組みは、どのように変わるのでしょうか。
従来の「技能実習制度」には「企業単独型」という制度がありましたが、今回の見直しでは内容が整理されるとともに、外国人の方を保護する観点からチェック体制が大きく強化されることになりました。また、新たに「企業内転勤2号」という在留資格も設けられる予定です。少し難しい内容ですので、できるだけ平易な言葉でご説明します。
通常、外国人材の受入れでは監理支援機関を通じて受け入れるケースが多いと思われますが、企業単独型は、企業グループの中で直接受入れができるという点が特徴です。例えば、日本法人が海外子会社や関連会社の社員を日本へ呼び寄せ、日本で働きながら教育・育成していくという運用が想定されています。
ただし、自社グループ内という関係性ゆえに、「技能実習制度」の場合では教育体制や労働環境が十分に整備されていない事例もありました。この反省を踏まえ、今回の「育成就労制度」では、外国人の保護をより確実にするためのルールが明確に整えられています。
企業単独型を利用する場合、受入れ企業には「監査人」を置くことが求められます。この監査人は、会社側の立場に偏らず、公正な視点で状況を確認できる人物であることが前提とされています。また、過去3年以内に「養成講習」を修了していることも条件となっています。単なる名目上の担当者という位置づけではありません。
監査人は三か月に一度以上、実際の職場に足を運び、受入れた外国人の方と直接面談します。教育計画が適切に実施されているか、給与や待遇面で不当な扱いがないか等を、書面だけではなく現場で確認することが求められます。
いわば、「第三者の目」でしっかり見守っていく仕組みが新たに制度として位置づけられたと思います。
今回の改正で、注目したいのが「企業内転勤2号」という新しい在留資格です。従来の企業内転勤と比べると、「現場で実務を経験しながら学ぶ」という色合いがより濃い制度設計となっています。
背景としては、海外拠点の若手社員を日本で一定期間育成し、再び母国の拠点に戻して活躍してもらいたい、という企業側のニーズが強くあったとされています。これまでは技能実習を利用するしかなく、制度上の建て付けと実態とのミスマッチが生じやすい側面もありました。
企業内転勤2号では、1年という限られた期間ですが、日本で実務を通じたOJTを行うことが想定されています。受入れ企業の常勤職員が一定数以上であること、受入れ人数の上限が定められていること、日本人と同等以上の給与水準を確保することなど、無理のない範囲で適正に受け入れるためのルールが整えられている点も特徴です。
それでは、企業としてどちらを選ぶのが良いのでしょうか。
長期的に育成し、日本国内で継続的に活躍してほしいという場合には、育成就労としての企業単独型が適しています。一方で、「1年間、日本で経験を積ませてから海外拠点へ戻す」という明確な育成目的がある場合には、企業内転勤2号の方が制度としてなじみやすいと考えられます。
大きな違いとしては、「就労できる分野が限定されるかどうか」、「審査や認定の手続きが必要かどうか」、「監査体制がどこまで求められるか」、「在留期間の上限」といった点に現れます。制度の特徴を理解した上で、自社の目的と運用実態に合った枠組みを選ぶことが非常に重要だと思います。
制度の中には、「常勤職員20名以上」「受入れは5%以内」といった条件も設けられています。これは、外国人の方を安価な労働力として大量に受け入れる目的で制度が使われてしまうのを防ぐための歯止めといえます。
あくまでも「育成」、「人材活用」、「相互の成長」という建前を実質化するための安全装置であり、企業の規模と教育体制がある程度整っていることが前提になっています。制度を適切に使いながら、外国人と日本企業の双方にとって望ましい関係を築いていくことが求められています。
今回の制度改正は、企業にとっては、選択肢が増える一方で、コンプライアンス対応の重要性も一段と高くなると言えるでしょう。
どの制度を利用するかという判断は、企業の体制や目的によって大きく変わります。制度上の要件だけでなく、実際の運用を見据えたうえで慎重に検討されることをお勧めいたします。
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